展示品は15歳の頃のスケッチ画に始まり、
最晩年の84歳の大作に至るまで、
各年代の作品がバランスよく揃っていた。
10代の頃は絵の表現技術を身につけようと「正確な」画風であり、
以降も壮年期まで比較的コントラストのはっきりした絵が多かった。
一般的にはこのあたりが、
「上手」で「芸術的」だと評価されるのかなと。
でもわたしが気に入った作品は、
その大半が80歳近くなって以降の作品。
作画対象となっている命あるものの表現が、
とにかくやさしい。
作者がどんな眼差しで対象物を観ていたかが、
そっくりそのまま伝わってくるよう。
たとえば『双兎(そうと)』という作品。
62歳と78歳で描かれた2つの作品が展示されており、
前者の作品では「<うさぎ>という対象」が主に表現されているのに対し、
後者は「<うさぎという対象>の奥にあるもの」がより描かれていると言ったら、
両者に感じた違いがうまく伝わるだろうか。
中でも『鴛鴦(えんおう)』は、
向き合った瞬間から涙が止まらなかった。
解説文なんか読まなくても、
この絵に込めた想いがなんとなく伝わってきたから。
呼び出しまでにあと15分あれば…とも思ったけれど、
いちばん観たかった絵は今回展示されていなかったし、
また次の機会にゆっくりと観なさいということだなと解釈し、
胸いっぱいで戻りを待つ家族の元へと急いだ。
